シェズの育ての母は本当に○○○○○か?
「三級長があの日、ベレト/ベレスではなくとある傭兵に出会っていたら」というコンセプトのファイアーエムブレム無双 風花雪月。風花雪月本編のifストーリーでありながら、本編では消化不良で終わることの多い闇に蠢くものとの決着や、同盟の勇将ホルスト、最強の武人であるベルグリーズ伯など、本編で重要なポジションながら顔グラフィックすら見られなかった人物の掘り下げやフルネームが見られます。
筆者のストーリー進行はまだ3周目の半ばですが、大半の支援回収が終わったので早めの考察記事になります。内容は「主人公(シェズ)の育ての母親は誰なのか?」という問題。巷では概ね、以下の感想が見られます。
- 結局どのルートでも語られず、消化不良(これについてはスルー)
- シェズの母親、もしかして「あの人」じゃないの?
- いや、それは無理があるからモブなのでは?
この件について、自分なりに結論が出たので取り纏めようと思います。当然ながら重大なネタバレを含みますので、特に真ルート(大きく物語が変化するルート)を一度もプレイできていない方は閲覧非推奨です。
シェズの育ての母親に関する情報
FE無双 風花雪月のシェズは天涯孤独の身であり、育ての母親の影響を強く受けて育っています(父の影響のみを受けて育ったベレト/ベレスとは対照的)。育ての母親の情報を整理すると、
- 故人である
- 物心ついた時から一緒にいた
- 捨て子の自分を拾ったと言っていた
- コーデリア領の山間の村で暮らしていた
- 外部との関わりは最低限だった
- 高い教養を備えていた
- いろんな魔法が使えた(ハピ、アッシュとの支援)
- 読み書きなどの生きる術を教えてくれた
- 過去のことはほとんど教えてくれなかった
といったところです。謎めいた人物ですが、時代設定として読み書きができるのは貴族・騎士など裕福な家の子ぐらいというものがあり、アッシュとの支援ではそんな人物が山間の村で暮らしていた不自然さを指摘されています。シェズとアッシュ、シェズとハピの支援は非常に重要なので、必ずチェックしておきたいです。
シェズの母親=アンゼルマ(=パトリシア)説
アンゼルマとは
早速ですが、2の説でシェズの母親候補の「あの人」として挙げられているのが、アンゼルマ(=パトリシア)です。この人物については詳しく説明すると非常に長くなるので、本編の段階で分かっていたことをざっくりまとめると
- エーデルガルトの生母(皇帝イオニアス9世の側室の一人)
- ディミトリの継母(国王ランベールの後妻)
- ランベールの後妻となった際の偽名が「パトリシア」
- ハピ曰く、ディミトリの言動はアンゼルマに似ている
- アランデル公フォルクハルトの妹
- 聖女コルネリアの古い友人
- ダスカーの悲劇の計画に関わっていた疑惑がある
- ダスカーの悲劇の際、馬車は襲われていないが行方不明
といったところです。筆者が書いたものではないですが、より詳しく知りたい方は以下のブログが良いと思います。
アンゼルマとコルネリア
ディミトリの生母はディミトリが物心付く前に流行り病で亡くなっており、ディミトリが「母」と呼ぶ場合はパトリシアを指します。また、水道の整備を進言し、この流行り病を終息させたのが聖女コルネリアです(完全に余談ですが、アッシュの両親はこの流行り病で亡くなり、ユーリスもこの流行り病で死にかけています)。
コルネリアは元々アドラステア帝国の学者ですが、この件を機に王国に渡っています。本来アドラステア皇帝の側室であったアンゼルマは、政争に敗れたことで身を引き、「古い友人」コルネリアの手引で王国へ亡命します。
無双で得られた情報から推測するに、アンゼルマとコルネリアの古い関係は魔道の研究に関してではないかと考えています。それはさておき、そこでランベールと出会って見初められたことで、後妻として迎えられディミトリを実の息子のように育てます(ただし今にして思えば、自分を通していつもエーデルガルトを見ていた節があった模様)。
ただし、仮にも皇帝の側室であるアンゼルマを後妻として迎え入れたことはランベールとしても外聞が頗る悪く、アンゼルマの安全のためにも公表などとてもできませんでした。そのためアンゼルマはパトリシアを名乗り、外部との交流を絶った生活を続けます。この時彼女とランベールの仲介をしていたのがコルネリアです。
闇に蠢くものの成り代わり
話は変わりますが、アンゼルマの兄フォルクハルトはアンゼルマが後宮入りしたことで権力を拡大し、「アランデル公」となっています。彼は皇帝が権力を奪われる「七貴族の変」を機に、姪のエーデルガルトを連れて王国へ亡命します(この時エーデルガルトは義理の姉弟であるディミトリと出会っています)。
ここでアンゼルマは実の娘であるエーデルガルトが王国に来ていることを知り、ひと目だけでもと会いたがるのですが、既に闇に蠢くもの「クレオブロス」に成り変わられていたコルネリアの策略により会えず、それは「ランベールに止められているから」と吹き込まれ、これがダスカーの悲劇の引き金となります。
(お気づきだとは思いますが、アランデル公もまたこの時闇に蠢くものの首魁「タレス」に成り変わられています。アランデル公は安全のために連れ出したはずのエーデルガルトを連れ、急ぎアドラステア帝国に引き返します。そうしてエーデルガルトは「血の実験」を受けることになるのです。)
アンゼルマはダスカーの悲劇に加担していた
ダスカーの悲劇は様々な陰謀が重なり合って起きたのですが、本来は「ディミトリを残していくはずだったランベール」が何故かアンゼルマとディミトリを連れてダスカーへと向かい、危うく王家からブレーダッドの血筋が途絶えるところだった……というのが「闇に蠢くもの視点で見た」アンゼルマの果たした役割です。
では「アンゼルマの視点で見た」、ダスカーの悲劇を引き起こすメリットとはなんだったのか?というのがディミトリの疑問ですが、これは「すべてを犠牲にしてでも
実の娘に一目会いたい」であろうとギュスタヴは推測し、コルネリアも死に際に証言しています。後妻という立場を捨てるにはこれしかないと、追い込んだわけです。
(余談ですが、ギュスタヴは「帝国にいる夫」についても理由の一つではないかと推測しています。イオニアス9世とアンゼルマは恋愛結婚であり、女神の塔の噂はこの二人が元になっています)
アンゼルマは闇に蠢くものではない
ただ、「アンゼルマ=闇に蠢くものの一味だったのか?」という説に関しては、ハピの証言を聞く限り否定できます。ハピは王国領の闇に蠢くものの研究施設でアンゼルマと何度か会っていましたが、ディミトリと同じく優しく、聡明で誠実な人柄だったようです。
外部との関わりを絶っていたアンゼルマが、なぜハピに会えたかについては想像の域を出ませんが、おそらく闇に蠢くものが使う「転移魔法」でこっそり抜け出していたのではないかと思います。研究施設自体が地下でつながっていたなどの説もありですが……。
その後のアンゼルマの行方は……。
残念ながらその先は明言されませんが、少なくとも「エーデルガルトには出会えなかった」ことが確定しています。ダスカーの悲劇のあまりの凄惨さから、自分の犯した罪に苛まれてしまったことは想像に難くありません。
アンゼルマは「王国」はもちろん「帝国」にもいられない身のため、想定されるその後の行き先としては以下の通りになります。
- 王国でも帝国でもない「同盟」
- フォドラの「外」
- 「闇に蠢くもの」との合流
ただ何にせよ、最初に王国を抜け出すために頼ったのは闇に蠢くものでしょう。本拠地「シャンバラ」に移送された可能性があります。
シェズの正体はエピメニデスの器
ラルヴァはエピメニデスの分身
ストーリーの核心をぶっちゃけますが、ラルヴァは闇に蠢くものの正体……「アガルタの民」の指導者の一人である「エピメニデス」が作り出した分身です。彼はとある外伝で「タレスのやり方は僕には合わない」と発言しており、彼とは別の方法でアガルタの民を救おうとしています。
アガルタの民がそれぞれ別のやり方で動いていることは、プレイヤーの視点でも度々触れられています。タレスが首魁とされていますが、クレオブロスは彼を「鈍間なジジイ」と評していたり、実際にやり方や研究内容が彼とはかなり違っていますね。
エピメニデスの最終目的はソティスとその眷属の排除
とはいえ、エピメニデスも最終目標自体は他のアガルタの民と同じ。獣魔=ソティスとその眷属ら「ナバテアの民」を排除し、世界を取り戻すことにあります。故にエピメニデスの分身であるラルヴァは、本能的にソティスの器であるベレト/ベレスを強く敵視し、使命感のようなものを感じていたようです。
エピメニデスはナバテアの民との戦いが「あまりにも長くなりすぎた」ため、種が途切れることを危惧していました。自身が皆を救う手段として「世界の循環=魂の再利用」という秘術を実行します。
魂の再利用とは
「魂の再利用」がタレスやコルネリアの使う「成り代わり」とどう違うかですが、彼らはあくまでも「本人が器を入れ替える」のに対し、エピメニデスの秘術は「分身を入れた器を用意。一度肉体が滅びたあとに器が起動し、本来の魂に肉体を返す」という技術だと推察しています。
ちなみに女神であるソティスはレア曰く、「例え肉体が滅びても、心と魂が残り続ける」ものらしいです。故にソティスの核を持つベレス/ベレトは彼女の心の声が聞こえるわけですが、これを擬似的に再現した技術なのかもしれません。
シェズは培養槽で成長した
実はシェズの専用最上級職である「アスラ」をマスターすると、ずばり「造られしもの」という専用スキルを獲得します。それを踏まえた上で、ラルヴァの人格が起動した時の回想を引用します。このイベントは真ルートでのみ見られます。
水の音。泡の音。
巨大な何かが動き続ける音。
オープニングの最初がわかりやすいですが、場所は闇に蠢くものの本拠地「シャンバラ」。「造られしもの」というスキル名と合わせて考えると、培養槽と培養液、それを管理する機械の音を想起させます。
それは永遠にも続くと思われたが……
変化は突然に訪れた。
相当長い期間、培養液で育てられたことが伺えます。
何かが砕かれる音。流れ出る水。
青白い影が僕を包み込む。
培養槽が破壊され、培養液が流れ出している場面です。
けたたましい音が鳴り響く中、
僕は必死に歩いた。光を求めて。
警報音が鳴っている中、「外」へとラルヴァが歩いています。
……あれは、想定外の事故だった。
すべてが文字どおり水泡に帰したかと……。
エピメニデス曰く、完全に予想外の事故だったようです。
この事故については当然ですが、
- 完全な事故(地震など)
- 人為的な事故
の2つが考えられます。どちらだとしてもエピメニデスの発言に違和感はありませんが、「誰かに連れられて歩いた」という描写が見当たらないことから個人的には前者ではないかと思っています。
脱出の前後で育ての母親と出会った
人為的に事故を起こしたのであれば、当然事故を起こした人物こそが育ての母親と見るべきです。そうでない場合は、ラルヴァが光を求めて外へ飛び出し、そこで「育ての母親の証言通り」捨て子として拾われたということになります。ここでも筆者は後者を推したいです。
育ての母=アンゼルマ説の矛盾点
時系列的に無理が大きい
「育ての母親=アンゼルマ説」を否定する最大の根拠として挙げられるのが、時系列の問題です。
シェズ(本編ではベレト/ベレス)が士官学校入りをしたのは1180年。シェズはその半年前にベレト/ベレスと対峙し、ベルラン傭兵団が壊滅しています。さらに遡ると、「ベルラン傭兵団には一番長く所属」、その前にもいくつかの傭兵団に所属しています。
育ての母親と暮らしていたのは更に昔の話になります。それに対し、ダスカーの悲劇が起きたのは1176年。アンゼルマが母親だとすると、シェズとアンゼルマが共に暮らしていた期間は長くても2年ほどしかありません。これを「育ての母」と呼べるかという疑問です。
アンゼルマではないとすると、アガルタの民が育ての母親
対抗説として挙げられるのが、事故を起こしたアガルタの民がシェズを連れて逃げ、そのまま育ての親となったという説です。たしかにアガルタの民であれば「読み書き」には困らないでしょう。ただ、まず以下の2つが問題になります。
- アガルタへの裏切りとなる(種の滅亡に繋がる)
- アガルタの民が山間の村で自然に暮らせるとは考えにくい
もう一つ、矛盾する箇所がある
上の2点だけでも個人的にはアガルタの民説はありえませんが、「実験動物に情が湧いてしまった」という主張はでてくるかもしれません。ただそれも含め明確に否定できる箇所が一つあります。
それはアッシュとの支援Bで出てくる、「いろいろ魔法を使えた」という部分です。アガルタの民は文字通り理魔法とは"別の理"で動く「闇魔法」を操ります。アガルタの民が、山間の村で生活に役立つような「理魔法」を使っていたとは考えられません。
逆にアンゼルマが育ての母であるとした場合、これはコルネリアの古い友人=魔道に精通していた可能性が高いというアンゼルマの特徴と合致します。
結論:シェズの育ての母親はアンゼルマ
問題となるのは時系列のみ
遠回りになりましたが、筆者の結論としてはシェズの育ての母親はアンゼルマと見て間違いありません。ただし、「培養槽から脱出するきっかけになった事故」については「アンゼルマが関与していない可能性が高い」「証言通り、捨て子を拾った」(先述の理由の他、ディミトリと同じく嘘が苦手だった可能性は高い)と見ています。
事故に関与・捨て子を拾った説はどちらもあり得る
時系列問題の解決はいったん置いておきましょう。
本編で不明となったアンゼルマの行方として、筆頭に上がるのはまず「闇に蠢くもの」の手引でシャンバラへと移動した説です。シャンバラは「帝国領の東端」、「コーデリア領に近い場所」にあります。この付近でシェズを拾ったorシャンバラから連れて逃げ出しコーデリア領に渡った、というのはどちらも十分に考えられます。
育てた動機は己の罪と向き合うため
育てた理由は、ダスカーで自らが引き起こした悲劇の罪滅ぼしがしっくりきます。いくら覚悟を決めていたとは言え、自らが育てたディミトリも犠牲になっている(と思いこんでいる)ので、さぞかし後悔したことでしょう。彼に注いだものと同等以上の愛情を持って、第三の我が子を育てたのではないでしょうか。
シェズの年齢、物心が付いた時期は不詳
時系列問題の解決のために、まず注目して欲しいのはシェズのプロフィール欄。実はシェズの年齢は不明です。培養槽で自我を持たずに成長したシェズに、「アンゼルマが2年足らずで愛情と生きるための術を教えた」とするとどうでしょうか?
さながらベレト/ベレスの幼少期のように、未覚醒で脱出し「器」としての役割しかなかったシェズ。アンゼルマがシェズを拾ったのも、物心が付いたのも、つい3~4年前だとしても「物心ついた時から一緒にいた」発言との矛盾点はありません。
傭兵団遍歴は気になる点
ただそれでも、複数の傭兵団を渡り歩いたあとにベルラン傭兵団に長く所属したという点は、時系列的に厳しく感じるかもしれません。これについて具体的に触れられている解釈は見当たりませんでしたが……。
個人的に推したいのは、「アンゼルマの影響を受けた価値観」と「一般的な傭兵団」が致命的に合わなかったという解釈です。ゆえにその場限りの仕事が多く、ベルラン傭兵団以外の団には合計で半年も所属していなかったのだろうと想像しています。
シェズの時間の認識にかなり疑問がある
プレイしていてシェズが「昔」という言葉を多用する印象はなかったでしょうか?
- 山間の村で暮らしていたのは「昔」
- ベルラン傭兵団に所属していたのは「昔」
- にも関わらず母親が亡くなったのは「かなり前」
他にも「昔のこと」で片付ける場面がわりと多く、「2年以上前」のことを一纏めに「昔」と呼んでいる印象があります。「昔」と「かなり前」だと前者がより古い記憶のように感じますが、シェズとしては後者が古いようです。
これは灰色の悪魔との対決の「3年半前」には培養槽の中にいたために、他のキャラであれば「小さい頃」というようなそれ以前の記憶が全く存在しないことに起因するのではないかと思います。
余談
ラルヴァの性別は変動制
特に書くところがなかったのでここで触れますが、ラルヴァは女性声優ながら非常に中性的な声・口調・顔をしています。そしてクリア後名声値で解放できるラルヴァは、「シェズの性別に合わせて限定兵種が変動」します。
元が人間である以上、肉体的な性別がないことは考えられないので、これは「シェズと同じ性別だった」という変動制の設定だと解釈できます。
ファイアーエムブレム無双 風花雪月の全体感想
正直なところ、無双シリーズということもありストーリーにはまるで期待していませんでした。しかしプレイしてみて非常に気に入った点として、「主人公の立ち位置がifストーリーの主人公」として完璧だったというのがあります。
- 本編ストーリーで掘り下げが不十分だった、闇に蠢くものに対して掘り下げと解決を見せる
- ストーリー自体は完結を見せるが、安直な大団円エンドではない
- 「先生」ほど、作中人物の心に深く入り込まない
- その分、フェリクスやローレンツなど「第二の副官ポジ」の活躍が多い
- 重要な役回りながら、「本編ではあっさり死んでいて登場しなかった」と思わせる描写がある
- 「抜けている」点をほどほどに描いており、不快感がない
- 男性主人公と女性主人公で大きな差はないが、男性側は「謎の自信家」、女性側は「ポンコツ感」と異なるアプローチで「抜けている」点を表現している
このあたりが非常に良かったと感じました。